かつて『火曜サスペンス劇場』という2時間ドラマが毎週火曜夜9時から日テレ系で放送されていた(通称:火サス)。1981年から2005年まで実に24年間にわたる長寿番組だった。80年代から90年代にかけ、テレビドラマ界におけるミステリー、サスペンスものの金字塔とも言える番組で、家事を終えほっと一息つく時間帯の主婦らを主なターゲットにしていた(ミステリー好きの私もよく見ていた)。

 当時、他局でも2時間ミステリーが競うように放送されており、特にテレ朝の『土曜ワイド劇場(土ワイ)』と熾烈な視聴率争いを繰り広げていたが、私としては、火サスのほうが強烈に印象に残っている。その理由としてまず思い出されるのは、オープニングの「フラッシュバックテーマ」だ。今聞いてもおどろおどろしく、小さい子供などは恐怖を感じ、たちまち布団に潜り込んでしまうような曲調だった。

 そして、火サスの視聴率を押し上げた最大の理由は、人気歌手による主題歌(テーマ曲)をオープニングテーマの最後の部分と番組のエンディングに使ったことだろう。その記念すべき最初の主題歌が岩崎宏美の『聖母(マドンナ)たちのララバイ』だった(1982年の日本歌謡大賞を受賞)。その後、杉山清貴『風のLONELY WAY』、竹内まりや『シングル・アゲイン』『告白』、高橋真梨子『ごめんね…』などの楽曲も使用された。

 事件が起こり(誰かが何者かによって殺害され)、容疑者と思われた人物が殺されるという展開を経て、主人公(船越英一郎や片平なぎさなど)が事件の真相に迫り、最後に真犯人を追い詰める(なぜか崖のシーンが多かった)というお決まりのストーリーではあったが、番組を見終えた視聴者が、安らかな気持ちで眠りにつくのに『聖母たちのララバイ』はうってつけのバラードだった。